吉村靖孝展 マンガアーキテクチャ――建築家の不在 TOTOギャラリー・間

明日までが会期のTOTOギャラリー・間で開催されている吉村靖孝展。訪れたのはかなり前なのだが、なかなか文章にできず、気づけば最終日の前日になっていた。

今回の展示は、建築家の作家性を「不在」にしたとき、建築はどう表現されるのかを探る試みだ。吉村さんの仕事には、建築が社会の制度や条件とどのように関係を築いてきたかを読み解く視点が通底している。彼の著書『超合法建築図鑑』では、建築基準法や都市計画といった規制が、まるで地形のように建築の形を決定している様子が描かれている。制約が単なる「縛り」ではなく、空間を生み出す力として作用することが、吉村さんの視点の特徴でもある。

今回の展示では、彼の7つの建築作品が短編漫画へと編集されている。建築の表現はこれまで模型や写真、テキストなど多様なメディアを通じて行われてきたが、漫画という形式は、建築家の手を離れ、より自由に解釈される場を提供しているように思えた。

例えば、『滝ヶ原チキンビレッジ』を題材にした漫画では、物語の始まりが建具を開けるシーンになっている。その際のオノマトペは、建具の素材や重さ、状態を直感的に伝えてくる。擬音というシンプルな表現が、空間の質感や感触まで想像させるのが面白い。

また、『VERTIPORT』ではスケール感が自在に変化し、まるで建築を縦横無尽に移動するかのような視点が生まれていた。写真では固定されがちな建築のイメージが、漫画では自由に動き、異なる次元の体験として浮かび上がる。そして、驚くのはその主観性だ。短い漫画でありながら、どの作品も実際に訪れた建築以上に「知っている」と思える感覚があった。

『超合法建築図鑑』では、制度や法規の影響が建築の形をつくるプロセスを可視化していたが、本展示では、漫画というメディアを通じて、建築の「体験そのもの」を主観的に味わうことができる。

さらに、漫画で得た建築のイメージを、実寸大の展示や模型を通じて再確認できる構成も興味深かった。上階の展示では、図面がまるで漫画のコマのようにページをめくる感覚で読める仕掛けがあり、建築の理解がさらに深まる。建築展示は、どうしても全体像を伝えることが難しいが、今回の展示は驚くほどスムーズにその世界に入り込むことができた。表現の手段は、まだまだ広がる余地があると、そんな可能性を強く感じさせる展示だった。

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