「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート」展

森美術館で2月上旬よりスタートした「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート」展。生成AIやゲームエンジン、仮想現実などの最新テクノロジーを用いながら、各アーティストがそれぞれのテーマにアプローチしている。そのため、手法も課題も多様で、制作者の国籍や年齢も異なる。ただ、共通するのは、同じ時代を生きる者として、社会課題に対して問いを持ち、それを表現しようとする姿勢だ。芸術と技術の関係については、これまでも多くの哲学者や表現者が論じてきたが、テクノロジーが飛躍的に進化する今、改めて考え直す契機となる展示だった。

今回の展示は、多様な表現方法が取られている。観覧者が実際にゲームをプレイできる作品や、延々と動き続けるオブジェクトなどが並ぶが、中でも動画作品が多く、その中でも特に印象的だったのが《アウトレット》という作品だ。

この作品では、どこかにありそうな仮想都市が舞台となっている。ゲームで用いられる3Dアセットが大量に配置され、さまざまなキャラクターが行動を起こす。背景はFPSゲームのような無機質な都市景観で、その中にリアルな人型のアセットや2頭身のデフォルメキャラクターが無作為に配置され、テクスチャーの統一感はない。

特に印象的だったのは、サーキットを疾走する映像のシーンだ。一人称視点で走る映像は、まるで実際の車載カメラのようなスピード感がある。しかし、次のカットで画面が引かれると、車ではなく「宙に浮いたオレンジ色の人」がサーキットを周回していることに気付く。これまでの映像の前提が覆される瞬間だ。

技術の進歩によって、私たちが持つ前提や認識の枠組みは変わっていく。同じ映像を見ても、人によって解釈が異なることは当然だが、それが加速度的に拡張されているのが今の時代だ。かつてはテレビが主要なメディアだったため、社会全体で共通認識を持ちやすかった。しかし、現在はSNSが主流となり、情報が分散化している。つながっていなければ情報に触れられず、リアルな対話が減ることで共通認識の断絶はますます進んでいる。マスメディアの一元的な情報発信から、個々の発信が中心となった時代の変化を、本作は強く意識させた。

この展示を通じて感じたのは、テクノロジーがもたらす可能性と、その中で生じる価値観の変容だ。技術が進化し、新たな表現の手法が生まれる一方で、それをどう受け止め、社会の中でどのように位置付けていくのかは、私たち自身に委ねられている。アートは常に時代を映す鏡であり、この展示は、私たちがこれからの社会で何を共有し、何を問い続けるべきかを考えさせるものだった。

コメント