谷尻さん「CHANGE」を読んで。

家にこもる時間が増えたので、どこか出かけに行く時間が、本を読む時間に変わってずいぶんと経った。最近、読むだけ読んで、感想を文字に起こすこともなかったので、久しぶりだけれど、考えたことを書きたい。

この谷尻さんの「CHANGE」は、建築の専門書でありながらも、建築を学んでいない人にとっても大変読みやすくなっている。それも、建築のアイデアの本質的なところに触れながらも、身近にある事象をかいつまみながら進むことが、読みやすさの大元かもしれない。

建築家としての職能は、これまで何世紀も前から、画家や彫刻家として作品を残してきた先達がいて、もちろん今でも様々なアイデアを形にするという、建築家が得意とする分野で活動をしてきた。谷尻さんの活動もひろく見れば、これまでの建築家がしてきた職能の拡張とは変わらないが、大きく異なるのが建築の中で捉える部分が異なる気がする。一つの建築をつくるまでには様々な過程を経て、実空間に建築が建つわけであるが、その過程の最初の方の「ことばで考える」段階をとても重視しているように思う。


どうしても、建築の設計の過程を知らない人は、出来た成果物としての作品を見てしまうが、建築をしている人は、思考の過程での「ことば」を使ったり、ダイアグラムや図式でイメージを作る作業が得意な人が多い。何かしらの制作活動をしている人は、モノが出来るまでの過程での試行錯誤の難しさをよく理解しており、そこに着眼することが多いように感じる。その過程での「ことば考える」ことは、形にする前に思考する過程でとても大切にするべき要素だと思う。建築という形のあるものだからこそ、思考を形先行で考えてしまうと、自分の作り出した形に縛られてしまう。もちろん、世に出るのは形であって大切なのだが、形をつくるための言葉の過程はそれ以上に大切ということかもしれない。

また、こうした事実は学生のコンペを見ていると分かるように、建築の形態と同じように、どう考えるかといった思考過程も問われているように思われ、そうした技能に秀でている人も増えているのではないかと。建築設計の仕事ではなく、デベロッパーや広告業界に行く人が多いのは、そうした思考過程が似ていることで、業界を超えていくハードルが低いのだと思う。

谷尻さんが違うのは、建築設計事務所を運営しながらも、積極的にこうした新しいスキームを創り出していることだと思う。むしろ、建築をやっているからこそ出来ることを見つける感度が高く、新しいものが生まれやすい。こうした活動によってうまれる、谷尻さんがいう職業・谷尻誠というのはとても面白く、むしろ今後、職業という言葉でくくりきれないほど、個人によって違う職能を持っている世界になっていくのは純粋に楽しみである。

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